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最高裁判所第三小法廷 昭和58年(行ツ)75号 判決

主文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき被上告人の控訴を棄却する。

原審及び当審における訴訟費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐治良三、同復代理人建守徹の上告理由第一点について

地方税法一九条の一二の規定によれば、地方団体の徴収金に関する滞納処分等の取消しの訴えは、当該処分についての異議申立又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ提起することができないものとされているところ、本件において、被上告人が本件配当処分につき自らは審査請求をすることなく直接本件訴えを提起したことは、記録上明らかであるが、原審は、本件配当処分については、訴外株式会社住宅総合センター(以下「訴外会社」という。)において被上告人が本件訴訟で主張するのと同様の理由により審査請求を行い、これに対する裁決がされているから、これにより被上告人の本件訴えの提起につき審査請求の手続が経由されたと同視するのが相当であるとして、本件訴えを適法としたものである。

しかしながら、地方税法一九条の一二の規定は、処分に対する救済の方法として、処分に不服のある者は、訴えによる救済を求めるに先立つてまず行政上の不服申立の手続を経由すべきことを要求しているのであり、このように訴えを提起するについて不服申立手続の前置が定められている場合においては、原則として、訴えを提起する者(以下「訴訟提起者」という。)自身が右不服申立の手続を経ていることが予定されているものと解するのが相当である。したがつて、訴訟提起者自身がその手続を経由していない以上、たまたま他の者が当該処分について訴訟提起者の主張と同一の理由に基づいて審査請求を経ていたとしても、両者が当該処分に対し一体的な利害関係を有し、実質的にみれば、その者のした審査請求は同時に訴訟提起者のための審査請求でもあるといえるような特段の事情が存しない限り、訴訟提起者の訴えについて当然に審査請求の手続が経由されたと同視して、これを適法な訴えと解することはできないというべきである(最高裁昭和二五年(オ)第三六六号同二九年二月一一日第一小法廷判決・裁判集民事一二号五五三頁の事案は、右特段の事情が存する場合であり、同判決の趣旨とするところも、結局右と同旨に帰するものと解することができる。)。

これを本件についてみるに、原審の確定するところによれば、訴外会社と被上告人とは債権者と連帯保証人の関係にあるものであり、必ずしも本件配当処分に対し一体的な利害関係を有しているということができず、右特段の事情があるといえないことは明らかであるから、本件において、訴外会社が被上告人の主張と同様の理由により審査請求を経ていることをもつて、被上告人の本件訴えの提起につき審査請求の手続が経由されたと同視することはできないといわざるをえない。そうすると、これと異なり本件訴えにつき審査請求の手続が経由されたと同視するのが相当であるとした原審の判断は、地方税法一九条の一二の規定の解釈適用を誤つたものというべきであり、右の違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点を指摘する論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上によれば、本件訴えは不服申立の手続を経ないで提起された不適法なものというべきであり、本件訴えを却下した第一審判決は結論において正当であつて、被上告人の控訴は棄却されるべきものである。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤正己 裁判官 安岡滿彦 裁判官 長島 敦 裁判官 坂上寿夫)

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